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【2014年10月30日】公立図書館の振興を求める要望書(文部科学省宛)

平成26年10月30日

文部科学大臣 下村博文 様

図書館友の会全国連絡会 代表  福富洋一郎
図書館問題研究会   委員長  中沢孝之
その他賛同91団体

 

公立図書館の振興を求める要望書

私たちは、公立図書館の振興発展のために各地で活動を行なってきました。

今日の公立図書館の環境は、地方公共団体の財政悪化により、資料費や人員の削減ばかりか、指定管理者による民営化など、コスト削減を目的とした効率化が進行しています。図書館運営の責任放棄のみならず、官製ワーキングプアと呼ばれる人々を大量に生み出しました。私たちは、官自らが「格差社会」を拡大させ、社会の不安定化を増大させていることに疑問を感じざるをえません。

また、社会の安定化とともに、社会を維持発展させるために、新しい時代を切り開く活力のある社会を築くことが必要です。迂遠であっても、知力、文化力、技術力といった基礎的な力を身につけ、自ら考え判断する力を持つ人間が育つ環境を整備する以外には方策はありません。このことが民主主義社会を支えることにつながり、わが国の繁栄にもつながるものと考えます。

そのためには、公立図書館が地域の情報拠点としての役割を果たすため、国が果たすべき役割は大きいと考えます。私たちは国が図書館の重要性を全国に発信すること、そして全国の図書館づくりを支える施策を実施することを願っています。

貴省は、学校図書館振興のために、平成 24 年度から地方財政措置として「学校図書館担当職員(学校司書)の配置」や「学校図書館図書整備5か年計画の拡充継続」にご尽力されました。また今年 6 月には、学校図書館法改正により、「学校司書」が法制化されましたが、法改正の主旨が生きるような取り組み、附則、附帯決議に盛り込まれた事柄を現実化する取り組みを期待しています。

以下、公立図書館の振興のため要望いたします。ご多用のところ恐縮ですが、11月末日までに図書館友の会全国連絡会代表に文書でご回答をお願いします。

(要望項目)

1.東日本大震災の被災地域の図書館に対する支援策の実施

2.市民参加で中長期図書館振興政策の策定

3.補助金・交付金等措置の実施

4.図書館管理運営を指定管理者制度、業務委託等民営化の対象から除外

5.図書館法の改正

1)住民代表の参加を必須とする図書館協議会の必置(図書館法第14~16条の改正)

  • 司書職員の必置及び館長の要件にかかわる規定(図書館法第 13 条の改正)
  • 「個人情報保護」条文の新設

6.図書館で働く非正規職員の労働環境の改善

7.地域資料や郷土資料の電子化のための予算計上

8.「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」の普及および到達度の調査

9.県域を越えた資料搬送費の無料化の実現

10.国立国会図書館の書誌データを全国に普及させる施策

11.書籍・雑誌・新聞等出版物の消費税軽減

要望事項

1.東日本大震災の被災地域の図書館に対する支援策の実施

大震災から3年半が経過しましたが、復興にはまだ遠く、貴重な地域資料、郷土資料も多く損傷したままにあります。日を追って回復は困難を増します。また、東北の「今」を伝えようと発信される多くの記録・情報も、今保存しなければ消えてしまいます。

私たちは、図書館が一刻も早く復興し、地域の生活情報の拠点として、地域の人々を支える中心となって活動することを願っています。関係機関や市民と連携をとり、復興政策のなかに図書館の設備や蔵書の復旧はもとより図書館で働く人々の雇用確保等の財源を配慮し、支援策を強力に実施するよう要望します。

2.市民参加で中長期図書館振興政策の策定

立ち遅れているわが国の公立図書館を加速的に発展させるため、予算を伴った中長期的図書館振興政策を、市民参加で策定してください。

3.補助金・交付金等措置の実施

公立図書館が効率的に機能するために、司書館長・司書職員の配置を要件とする、図書館建設及び資料費等への補助金・交付金等の措置をしてください。

4.図書館管理運営を指定管理者制度、業務委託等民営化の対象から除外

平成20年6月、社会教育法等の改正時、衆参両院の委員会が「指定管理者制度の導入による弊害、人材確保、有資格者の雇用確保など」の附帯決議を行い、渡海文部科学大臣(当時)より「公立図書館に指定管理者制度はなじまない」との国会答弁がありました。指定管理者制度ばかりでなく、業務委託、市場化テスト、事業仕分け等による図書館運営の民営化も、同様の弊害をもたらします。

これらの警鐘を省みることなく、指定管理者制度導入など図書館の民営化を強引に進める自治体は後を絶ちません。住民には十分な説明がないまま、コスト削減を目的とした民営化が進み、図書館の衰退を来しています。

公立図書館を所管する文部科学大臣として、公立図書館の振興を図るために、指定管理者制度、業務委託等の図書館運営民営化について、平成 20 年の文部科学大臣答弁を超える表明を行われること、公立図書館を民営化の対象から除外する施策を実施することをお願いします。

また、指定管理者制度を導入した図書館に対して、指定管理期間終了後は直営に戻すよう、働きかけをしてください。

5.図書館法の改正

  • 住民代表の参加を必須とする図書館協議会の必置(図書館法第14~16条の改正)

図書館協議会は市民参加の重要な仕組みなので、図書館法第14~16条を改正し、図書館協議会を、公募による住民代表参加を必須とする必置機関としてください。

  • 司書職員の必置及び館長の要件にかかわる規定(図書館法第 13 条の改正)

図書館運営の要となる司書を専門的職員として必置化してください。また、館長についての職務内容は 13 条 2 項により規定されているものの、館長が持つべき要件についての規定がありません。「図書館に関して高い識見を有するもの」または「図書館に関して優れた識見を有する者」の規定を加えてください。

  • 「個人情報保護」条文の新設

個人情報の漏えいが頻繁に起きています。図書館のコンピュータ化の進行、民営化による民間業者の図書館運営への進出など、図書館が蓄積した大量の個人情報を含む情報が図書館外に流出する恐れを感じます。個人情報保護の条文を新設してください。

6.図書館で働く非正規職員の労働環境の改善

公立図書館において経費削減を前提とした司書の非正規・嘱託化が進んでいます。その雇用期間は、3年あるいは5年といった有期の雇用止めが散見されます。また、指定管理者制度など民営化された図書館で働く人々の多くが、時給 800~900 円台という低い賃金で働いています。司書専門職は経験と知識の蓄積が必要な職務であり、短期間の有期雇用では、図書館サービスの質の低下を招きます。図書館本来の使命・役割を考慮して、正規・専門職雇用を当該自治体へ働きかけ、官製ワーキングプアと言われる非正規職員の労働環境を改善してください。

7.地域資料や郷土資料の電子化のための予算計上

国立国会図書館で進めている資料の電子化計画は、将来の教育文化政策に大きな力を発揮する画期的な取り組みとして期待しています。公立図書館においても、独自の地域資料、郷土資料の電子化を推進し、国と連携することを強く望みます。公立図書館における該当資料の電子化が、従来の資料費を削減することなく迅速に進められるよう、資料電子化のための補助金の措置等をしてください。

東日本大震災で、貴重な地域資料、郷土資料の修復作業が続いています。しかし、失われたもの、修復できないものも多くあります。このことは日本全国どこにでも起きる可能性があります。電子化するための予算措置を早急に実施してください。

8.「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」の普及および到達度の調査

平成 24 年 12 月、文部科学大臣名で標記基準が告示されました。私たちはこの基準が全国の図書館の発展につながることを望んでいます。そのためには、「望ましい基準」が全国の図書館に普及することとともに、「望ましい基準」に照らしてどこまで到達したかを把握し、それに基づく方策をたてることが必要と考えます。「望ましい基準」の普及およびその到達度を把握するための調査を実施してください。

9.県域を越えた資料搬送費の無料化の実現

図書館利用者が、他の図書館から図書資料を入手する場合、現状は多くの県立図書館が中心となって県域の資料搬送を受け持ち、県内の資料流通システムが作られています。しかし、県域を越えた場合は、借り受ける図書館が送料を負担しますが、予算が無いので利用を断わったり、利用者に経費を負担させたりすることがあるなどの問題が起きています。誰でも必要な資料を無料で、貧富の差なく利用できるよう、県域を越えた資料流通に必要な搬送費用(郵送費等)を国の政策で無料化してください。また、このことについて、総務省、国立国会図書館とも連絡調整をおこなって進めてください。

10.国立国会図書館の書誌データを全国に普及させる施策

平成24年1月から国立国会図書館の質の高い書誌データが、無償で提供されるようになりましたが、利用する図書館はわずかしかありません。全国の図書館の資料情報の一元化と効率化を図るために、国立国会図書館と連絡調整をとって、書誌データを全国の図書館に普及する施策を実行してください。

11.書籍・雑誌・新聞等出版物の消費税軽減

書籍・雑誌・新聞を閲読する機会を増やすことは、国民の文化生活や、民主主義社会を維持発展させる上で大事なことと考えます。書籍・雑誌・新聞等出版物の消費税について、廃止あるいは軽減措置をおこなってください。

以上

連絡先 図書館友の会全国連絡会事務局長 船橋佳子

※個人情報保護の観点より事務局等の連絡先はホームページでは非公開とさせていただきます。お問い合せは図友連HPメールフォームよりお願いいたします。

>>【2014年10月30日】公立図書館の振興を求める要望書(文部科学省宛)(PDF・賛同団体一覧付)

>>【参考資料】数字で見る図書館の現況2014年版(PDF)

【2014年11月9日】図書館シンポジウム “ツタヤ方式”の図書館ってどうなの? 今求められている図書館とは?

図書館シンポジウム “ツタヤ方式”の図書館ってどうなの? 今求められている図書館とは?図書館シンポジウム
“ツタヤ方式”の図書館ってどうなの?
今求められている図書館とは?

講師 森下芳則氏
(元田原市図書館長)
◆他にパネリスト数名

11月9日(日)13:30~
あさひホール
(名鉄小牧駅下車 西側徒歩2分 ラヒオ5F)

山下市長のマニフェストに「大型プロジェクトは市民の意見を良く聞き、長期的視点に立って、ゼロから再検討する」となっていますが、実際は市民の意見を聞かず「独断で図書館建設」を進めようとしています。図書館の役割を考えるシンポジウムを行います。市民一人ひとりが「学びあって共にまちづくり」を考えましょう。

参加は自由で無料です。
定員306名(内 車いす4席)
定員になり次第締め切ります。

<問い合わせ>
小牧の図書館を考える会
世話人代表 稲垣美佐代
電話・FAX 0568-76-8447

2014年2月24日 「図書館の民間会社による管理・運営に関する意見・要望」の送付について(海老名市・多賀城市あて・要旨)

平成26年2月24日
各 位
図書館友の会全国連絡会 代表 福富洋一郎

「図書館の民間会社による管理・運営に関する意見・要望」の送付について

私たちは、公立図書館が「地域の知の拠点」として発展することを願い、全国各地で活動する市民団体・個人の連絡組織です。本日、別紙の通り神奈川県海老名市と宮城県多賀城市の市長と教育委員長に対し「図書館の民間会社による管理・運営に関する意見・要望」を提出しました。

佐賀県武雄市図書館は、昨年4月にカルチュア・コンビニエンス・クラブ社(CCC)を指定管理者とする図書館としてリニューアルオープンしました。書店とCD/DVDレンタルショップ、コーヒー店(スタバ)を配置することにより入館者を増やし、このことは全国的に注目を集めています。そして海老名市、多賀城市、山口県周南市など、武雄市を参考にする自治体が出てきたと報道されています。私たちは、武雄市民や図書館利用者、全国の公立図書館員や図書館友の会会員の見学情報を集めた結果、武雄市の事例は、公立図書館の振興・発展ばかりでなく地方自治のあり方にとっても、大きな問題・課題があると深く憂慮しています。

私たちは、この意見・要望書で指摘した6つの問題点・課題について、直接の関係者ばかりでなく、全国の自治体の図書館行政に携わる方、議員、マスコミ関係者、そして何よりも公立図書館の主人である住民一人ひとりに広く伝わるよう、心から願っています。

ご承知のとおり、日本の公立図書館の「図書館数」・「資料費」は、G8各国平均から大きく立ち遅れております。また図書館の要となる「司書」の配置も、公立図書館・学校図書館ともに大変貧しい状態にあります。その中で近年、公立図書館に指定管理者制度を導入したり、窓口業務を民間会社に委託する自治体が増えています。しかし、それは公立図書館が担うべき図書館サービスの低下につながり、私たちが目指す理想の図書館づくりにはそぐわないものとして、これまでもその問題・課題を提起してきました。

この意見・要望書を、これからの図書館のあり方を考える参考にして頂ければ幸甚に存じます。

2014年2月24日 「図書館の民間会社による管理・運営に関する意見・要望」の送付について(海老名市・多賀城市あて・要旨 PDF)

>> 2014年2月24日 図書館の民間会社による管理・運営に関する意見・要望(海老名市あて)
>> 2014年2月24日 図書館の民間会社による管理・運営に関する意見・要望(多賀城市あて)

2014年2月24日 図書館の民間会社による管理・運営に関する意見・要望(海老名市あて)

平成26年2月24日
海老名市長 内野 優 様
海老名市教育委員長 海野惠子 様

図書館の民間会社による管理・運営に関する意見・要望

図書館友の会全国連絡会
代表 福富洋一郎

私たちは、公共図書館の充実と発展を求めて活動している図書館友の会の全国組織です。
佐賀県武雄市図書館は、昨年4月にカルチュア・コンビニエンス・クラブ社(以下「CCC」という。蔦屋書店、CD/DVDレンタルショップのTSUTAYAの運営会社で、スターバックスのライセンス提供を受けている)を指定管理者とする図書館としてリニューアルオープンしました。
このことは全国的に注目を集め、民間ノウハウ活用のモデルの一つとして紹介され、武雄市を参考にする自治体があると報道されています。海老名市も武雄市を参考にして、市立図書館の改善策を考えているのではないかと思い、ご参考までに武雄市図書館の実績を評価し、問題点・課題を6点にまとめてお伝えしたいと思います。この意見・要望に対し、ご回答をお願いします。

私たちは一昨年5月、樋渡武雄市長が、東京の代官山蔦屋書店で記者発表して以降、この動きに関心を持ち、武雄市民や図書館利用者、全国の公立図書館員や図書館友の会会員の見学情報を集めてきました。そして、この武雄市の事例が、公立図書館の振興・発展ばかりでなく地方自治にとっても、大きな問題・課題があると考えるに至りました。そして平成25年7月7日に「武雄市図書館の民間会社による管理・運営に関する声明書」を発表しましたので、これもご参考にしていただければ幸甚です。

1.Tカード採用は営業支援でありビッグデータへとつながる恐れ
武雄市図書館の指定管理者であるCCCにとって、Tカードは重要な営業促進手段の一つです。図書館カードにこのTカードを併用することについては、情報セキュリティ関係者や日本図書館協会、日本文藝家協会等から数々の懸念が表明されました。そのため、図書館利用者が従来の図書館カードを選択することも認めるようにはなりました。しかし、現場では丁寧な説明がないままTカードへの勧誘が続いています。海老名市がどうしてもTカードを図書館に使用しなければならないか、慎重に検討することを要望いたします。

図書館利用に特定のポイントカード使用を認めることは、CCCと提携しTカードを導入している事業者への便宜供与となり、営業支援行為であり、公平公正であるべき行政として大きな問題です。また、「利用者の貸出履歴など、個人情報が洩れたり、商業利用されたりすることはない」と説明していますが、一民間会社であるCCCが図書館利用に係る情報を集積することになり、ビッグデータとして自己情報コントロール権が侵害されることを懸念しています。

2.市民によるオープンな議論の場の提供を
市民の幸せを考える市政を目指すのであれば、公立図書館の管理運営に関することは事前に詳細情報を提供し、広くパブリックコメント等で市民の声を聴くとともに市民との意見交換の場を提供してください。海老名市はこれまでも市民の意見を取り上げてきていますが、懸念する市民に対し、さらにオープンな議論の場の提供を要望します。

図書館や歴史資料館など社会教育施設へ指定管理者制度を導入する最大の問題点は、業務の継続性が担保されないことだと考えます。指定管理者制度の目的が、民間活力の導入による住民サービスの向上であれば、競争の論理により数年で指定管理者が変わる可能性は大です。CCCは利益が出なければ撤退します。当然、図書館の司書や専門的職員も変わります。公立図書館は、日々の業務に加えて、町の記憶遺産や文化資産を収集・整理・保存し、次世代に引き継ぐという使命も併せ持っています。それを担う司書の専門性や、地域住民との協同作業は数年で培われるものではありません。費用対効果を考慮しても司書の継続的な確保は図書館にとって最重要課題です。だからこそ、市民は図書館への税金の投入を認め、その責任を行政に果たすよう求めています。

武雄市教育委員会は、図書館サービスをCCCに丸投げしてしまい主体的に教育機関として図書館の管理・運営を継続して行っておりません。本を借りてポイントをためたり、コーヒーを飲みながら本が読めたり、図書館で本や雑誌が購入できることが、その使命に勝るとは思えません。

3.CCCの採用は、地域振興に結びつかない懸念
CCCという東京に本社ある民間会社に図書館運営を委託するということは、人材とノウハウの根幹部分が地元に根付かず、東京に流出するということを意味します。地域振興のため東京から企業を誘致してくるというモデルは、これまでにも地域経済の中央依存や衰退など破たんを見ているはずですが、今回はそれを繰り返すことになります。

イタリアで始まったスローフード運動は、アメリカのファストフードチェーン店を拒否して、地産地消、即ち地域自立をめざすものですが、これは教育文化行政にも当てはまるものだと思います。東京に目を向けるのではなく、郷土の歴史・文化を大切にして、地元書店と共存共栄することが、真の地域振興策ではないかと考えます。
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2014年2月24日 図書館の民間会社による管理・運営に関する意見・要望(多賀城市あて)

平成26年2月24日
多賀城市長 菊地健次郎 様
多賀城市教育委員長 浅野憲隆 様

図書館の民間会社による管理・運営に関する意見・要望

図書館友の会全国連絡会
代表 福富洋一郎

私たちは、公共図書館の充実と発展を求めて活動している図書館友の会の全国組織です。

佐賀県武雄市図書館は、昨年4月にカルチュア・コンビニエンス・クラブ社(以下「CCC」という。蔦屋書店、CD/DVDレンタルショップのTSUTAYAの運営会社で、スターバックスのライセンス提供を受けている)を指定管理者とする図書館としてリニューアルオープンしました。

このことは全国的に注目を集め、民間ノウハウ活用のモデルの一つとして紹介され、武雄市を参考にする自治体があると報道されています。多賀城市も武雄市を参考にして、市立図書館の改善策を考えているのではないかと思い、ご参考までに武雄市図書館の実績を評価し、問題点・課題を6点にまとめてお伝えしたいと思います。この意見・要望に対し、ご回答をお願いします。

私たちは一昨年5月、樋渡武雄市長が、東京の代官山蔦屋書店で記者発表して以降、この動きに関心を持ち、武雄市民や図書館利用者、全国の公立図書館員や図書館友の会会員の見学情報を集めてきました。そして、この武雄市の事例が、公立図書館の振興・発展ばかりでなく地方自治にとっても、大きな問題・課題があると考えるに至りました。そして平成25年7月7日に「武雄市図書館の民間会社による管理・運営に関する声明書」を発表しましたので、これもご参考にしていただければ幸甚です。

1.Tカード採用は営業支援でありビッグデータへとつながる恐れ
武雄市図書館の指定管理者であるCCCにとって、Tカードは重要な営業促進手段の一つです。図書館カードにこのTカードを併用することについては、情報セキュリティ関係者や日本図書館協会、日本文藝家協会等から数々の懸念が表明されました。そのため、図書館利用者が従来の図書館カードを選択することも認めるようにはなりました。しかし、現場では丁寧な説明がないままTカードへの勧誘が続いています。多賀城市がどうしてもTカードを図書館に使用しなければならないか、慎重に検討することを要望いたします。

図書館利用に特定のポイントカード使用を認めることは、CCCと提携しTカードを導入している事業者への便宜供与となり、営業支援行為であり、公平公正であるべき行政として大きな問題です。また、「利用者の貸出履歴など、個人情報が洩れたり、商業利用されたりすることはない」と説明していますが、一民間会社であるCCCが図書館利用に係る情報を集積することになり、ビッグデータとして自己情報コントロール権が侵害されることを懸念しています。

2.市民によるオープンな議論の場の提供を
市民の幸せを考える市政を目指すのであれば、公立図書館の管理運営に関することは事前に詳細情報を提供し、広くパブリックコメント等で市民の声を聴くとともに市民との意見交換の場を提供してください。多賀城市はこれまでも市民の意見を取り上げてきていますが、懸念する市民に対し、さらにオープンな議論の場の提供を要望します。

図書館や歴史資料館など社会教育施設へ指定管理者制度を導入する最大の問題点は、業務の継続性が担保されないことだと考えます。指定管理者制度の目的が、民間活力の導入による住民サービスの向上であれば、競争の論理により数年で指定管理者が変わる可能性は大です。CCCは利益が出なければ撤退します。当然、図書館の司書や専門的職員も変わります。公立図書館は、日々の業務に加えて、町の記憶遺産や文化資産を収集・整理・保存し、次世代に引き継ぐという使命も併せ持っています。それを担う司書の専門性や、地域住民との協同作業は数年で培われるものではありません。費用対効果を考慮しても司書の継続的な確保は図書館にとって最重要課題です。だからこそ、市民は図書館への税金の投入を認め、その責任を行政に果たすよう求めています。

武雄市教育委員会は、図書館サービスをCCCに丸投げしてしまい主体的に教育機関として図書館の管理・運営を継続して行っておりません。本を借りてポイントをためたり、コーヒーを飲みながら本が読めたり、図書館で本や雑誌が購入できることが、その使命に勝るとは思えません。

3.CCCの採用は、地域振興に結びつかない懸念
CCCという東京に本社ある民間会社に図書館運営を委託するということは、人材とノウハウの根幹部分が地元に根付かず、東京に流出するということを意味します。地域振興のため東京から企業を誘致してくるというモデルは、これまでにも地域経済の中央依存や衰退など破たんを見ているはずですが、今回はそれを繰り返すことになります。

イタリアで始まったスローフード運動は、アメリカのファストフードチェーン店を拒否して、地産地消、即ち地域自立をめざすものですが、これは教育文化行政にも当てはまるものだと思います。東京に目を向けるのではなく、郷土の歴史・文化を大切にして、地元書店と共存共栄することが、真の地域振興策ではないかと考えます。

4.武雄市における地方自治法や図書館法等の法令遵守違反
自治体の首長が、特定の民間会社を指定管理者に選定し、十分な情報公開をしない地方自治のあり方は問題です。スピード感を重視するという理由で、行政が遵守すべき手続きを市長が軽んじてきました。 武雄市長の独断でCCC1社を指定管理者として指名したことは、受注価格、公平性、透明性に問題があり、地方自治に求められる公共調達の適正化方針に反します。また市立図書館の改造に当たり、CCC社の営業部分も公共投資で実施したことは、問題があると考えます。特定の民間会社を優遇することは、公平公正を旨とする行政の立場を逸脱していると私たちは考えます。

多賀城市では武雄市とは状況が違っていますが、図書館政策を市民に示さないまま、武雄市と同様にCCCという特定の民間会社を特命したと市民に誤解を与えないようにご説明をお願いいたします。

5.市民が求める公立図書館像との乖離
改めて言うまでも無く、公立図書館が担うべき公共性は、すべての住民、特に社会的に弱い立場の住民の基本的人権や知る権利を守ることにあると考えます。公立図書館は、高齢者や子どもたち、障がい者、低所得層などの社会的弱者の利用を基本と考えるユニバーサルサービスの構築・提供を第一に考えるべきです。 武雄市図書館は、リニューアルして商業主義が目立ち、この「民主主義の砦」としての公立図書館の役割と公共性への配慮がまったく欠如してしまいました。

また、市民が求める図書館サービスは、利用者に対応したサービスや貸出サービスだけでなく、レファレンス等の情報サービス、さらには地域の課題に対応したサービスなど多様なものです。多賀城市におかれては、これらの図書館サービスを十分行える態勢づくりを目指していただくよう要望します。(【参照】「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成24年12月19日 文部科学省告示)

6.公共サービスの商業化の抑制、公共の場の安心・安全の確保
今回武雄市は、書店とCD/DVDレンタルショップ、コーヒー店を配置することにより入館者を増やしました。武雄市では、図書館の来館者を大幅に増やすことが地域の活性化につながり、成功だと評価しています。

しかし私たちは、公立図書館に求められる本来の公共サービスは逆に弱体化したと考えます。民間会社であるCCCは、書店やレンタル、コーヒー店の営業から、収益を上げることができます。事実武雄市図書館では、貸出も可能な雑誌資料の所蔵タイトル数を大幅に減らし、書店での販売を促進しています。商業色が前面に出てきたため、経済的に恵まれていない高齢者や子どもを持つ親たちが利用を躊躇する状況が生まれてきています。リニューアルオープン後、まだ、判断力があるとはいえない子どもたちが嬉々として自動貸出機でTカードを使っている姿や、図書館利用者の座席でも誤ってCCC社員が商品購入を要求したことなどは、境目のない「商業施設」との同居の弊害ではないでしょうか。

また天井まで続く書架に詰め込まれた本は、地震時、凶器と化して利用者を襲う危険性が懸念されています。一部はダミー本であるようですが、多賀城市もこの天井まで続くデザインを採用する等、武雄市図書館のデザインを取り入れようとしているのではないかと懸念しています。商業化を抑制するとともに、公共の場の安心・安全の確保を要望します。

以上

【参考】 「私たちの図書館宣言」
http://totomoren.net/aboutus.html#sengen
私たちは図書館のあるべき姿として、2009年に「私たちの図書館宣言」を発表しました。その前文で、「図書館は人類の叡智の宝庫です。読み、調べ、学び、交流し、必要な情報が得られる教育機関として、私たちの自立と地域社会の発展になくてはならない施設です。」 そして、第7項目では「教育委員会の責任で設置し、直接、管理運営される図書館」と宣言しています。

2014年2月24日 図書館の民間会社による管理・運営に関する意見・要望(多賀城市あて PDF)