池沢昇(図友連運営委員)
図書館友の会全国連絡会(図友連)は福岡市で開かれた図書館大会の機会に、11月23日に「武雄市図書館・伊万里市民図書館見学会」を行いました。
武雄市図書館は、CCC(蔦屋書店などを経営)が、従来の図書館を大改造リニューアルした図書館です。今までにないサービスとして、本・雑誌の販売(蔦屋書店)、喫茶店の経営(スターバックス)、CD/DVDレンタルショップ(TSUTAYA)とT-ポイントカードを始めました。マスコミが取り上げ、見学者が殺到し、利用者は大幅に増え、「新しい時代のモデル」と喧伝されています。
図友連は、「武雄市図書館の民間会社による管理・運営に関する声明書」を発表し、武雄市との間で意見交換してきました。一方、佐賀県武雄市は遠く、多くの図友連会員が自分の目で見ることができませんでした。見学会の中心は武雄市図書館を「この目で見る」ということにあります。都合のよいことに隣が伊万里市です。トップダウンで作られた武雄市の対極にある、市民との協働で作られた図書館として知られています。その2館を見比べることもこの見学会の目的です。
武雄市図書館は、自治体の姿勢にも問題を抱えていて、全体的に考えないと武雄市図書館の実態を捉えることは困難ですが、ここでは、武雄市図書館を目で見て感じたことのみを書きます。
図書館入口を入ると全体を見渡せます。2階建てが低・中・高の3層に分かれたように見えます。入口から蔦屋書店の販売スペースが広がります。新刊書などが平置き・低い書架に並び、それは600タイトルを超える雑誌コーナーにつながり、その脇にスターバックスコーヒー店とその専用座席が並び、一体となって広々とした見通しのよい空間を作っています。
中層の中心は、長い雑誌コーナーに沿って、四囲を高書架でめぐらした3つの島の並びです。それぞれ、料理、旅行、人文の本が置かれ、島の中にも書架が並んでいます。ここの本は蔦屋書店の売り物ですが、図書館の本も置いています。
高層は、2階キャットウォークの壁にずらりと並ぶ3m高の超高層書架の一群で、低層から高くせりあがってまことに壮観です。この素晴らしい景観を眺め、スターバックスのコーヒーを飲みながら、好きな雑誌を何冊も持ってきてページをめくるのは、何とも楽しいことでしょう。人が多いので落ち着かないのですが、軽く雑誌を楽しむ程度ならさして気になりません。
つまり、陽のあたる場所は、蔦屋・スターバックス・CD/DVDレンタルTSUTAYA(入口を入った左の半ば独立した建物)と言う、CCCの商業施設が独占します。
従来の図書館は完全に奥に押し籠められています。子どもコーナーは1階の一番遠い場所です。一部に高書架があり、絵本でさえ大人も手が届かない棚に並べられ、棚はきちんと整理されている状態にはありません。椅子・机その他調度品の質はあまりよいものとは言えず、十分な広さもなく、寒々としています。子どもたちのことをあまり考えていないように思えて 子どもたちが気の毒です。
一般書は、閲覧席も多く、全体のスペースも広く、子どもコーナーよりもはるかに居心地はよいものです。しかし、奥に押し籠められている点では変わらず、キャットウォーク下の1階壁面と壁裏の幾つかの部屋、2階キャットウォーク壁面と壁裏の幾つかの部屋にテーマごとに分散して置かれています。商業施設にしない部分をうまく再活用したものの、本が分散しすぎて使いにくいと感じます。また、高書架が多く、上部に置かれた本は実質利用できません。主目的は装飾と思われます。
新しい武雄市図書館は、表側は魅力的に見えます。スターバックスの専用席が一番良い場所に用意され、コーヒーとケーキ、あるいは気にいった雑誌・本を買う、これがこの武雄市図書館利用の作法と思われます。地元の人は「千円図書館」と呼ぶそうです。大変よくこの図書館の本質を言い表しています。
営利追求がミッションであるCCCは、当然に売り上げを優先し、金にならない、競合関係にもある図書館部分は抑えるでしょう。武雄市は、膨大な税金を投入するなどCCCの営業を支援協力し便宜を図りました。これが武雄図書館です。
背景に何があるのか、武雄市は情報開示しないので分かりません。全国に、情報を隠して武雄型の図書館を作る動きが続いています。今、直面するのは、地方自治は誰のものか、ということでもあります。(終)
写真1 2階キャットウォーク 見上げるほど高い書架
写真2 入口入って右手 蔦屋書店販売コーナーとスターバックス
*『としょかん 128号』に原稿として執筆中。
掲載に関しては「としょかん」編集部許可済み。