公立図書館、学校図書館の振興を求める要望書

平成24年5月22日

文部科学大臣  平野博文 様
文部科学副大臣 高井美穂 様

 図書館友の会全国連絡会  代表 福富洋一郎
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日本親子読書センター   代表  関谷康子
図書館問題研究会    代表  中沢孝之
その他賛同104団体
 

 私たちは、公立図書館、学校図書館の振興発展のために各地で活動を行なってきました。しかし、わが国の図書館、読書活動の環境は依然として厳しいものがあります。指定管理者制度などによる民営化、人員削減、資料費の削減などが全国各地で進行し、図書館の衰退とともにワーキングプアとよばれる人々を大量に生み出しています。このような状況を変える国の役割は大きいと考え、図書館振興の要望を関係省庁に行ってきました。
 今日不況が世界を覆い、わが国でも国民の生活基盤が揺らぎ、社会が不安定化してきていることを感じます。民主主義という仕組みは、国民一人一人が、主体的に考え、精確に判断し、的確に行動する力を身につけることによってのみ維持しうるものと考えます。それには、知力、文化力、技術力といった基礎的な力の習得が必要であり、国民の繁栄即ち国家の繁栄もまたそれを基盤として成り立つものであると思います。
 そのためには、情報拠点としての図書館の役割は重要です。私たちは国が図書館の重要性を全国に発信すること、そして全国の図書館づくりを支える施策を実施することを願っています。
 貴省は、学校図書館担当職員(学校司書)配置に対する財政措置の新規実施をはじめとして、学校図書館図書整備5か年計画の拡充継続の財政措置など、学校図書館振興への大きな一歩を踏み出されました。総務省でも、図書館振興を柱の一つとした「住民生活に光をそそぐ事業」が地方交付税として予算化されました。自治体がこのことの意味を考え、予算がその目的に適った使い方がされるよう、私たちはそれぞれの地域で働きかけています。
 私たちは、これらの取り組みを高く評価し、敬意を表します。しかしながら、図書館の抜本的改善にはまだ遠い現状ですので、以下要望いたします。ご多用のところ恐縮ですが、6月末日まで図書館友の会全国連絡会代表に文書でご回答をお願いします。

要望事項

1.東日本大震災の被災地域の図書館に対する支援策の実施

大震災から1年が経過しましたが、マスコミなどを通じて、まだ復興には程遠い現実が報じられています。被災地域の学校図書館・公立図書館では、図書館員が緊急業務に従事するなど、図書館に人がいない状態になっています。そのため、図書館は被害を受けたままの状態に放置され、被害実態も明らかになっていません。貴重な地域資料、郷土資料も多く損傷したままにあると思われます。日を追って回復は困難を増します。また、図書館ボランティアの希望があるにもかかわらず、図書館に受入態勢がないため、支援もうまく届きません。図書館に図書館復興のための人を配置できるようにすることが緊急に必要です。
 私たちは、図書館が一刻も早く復興し、地域の生活情報の拠点として、地域の人々を支える中心となって活動することを願っています。関係機関や市民と連携をとり、復興政策のなかに図書館の設備や蔵書の復旧はもとより図書館で働く人々の雇用確保等の財源を配慮し、支援策を強力に実施するよう要望します。

2.公立図書館の振興

(1) 市民参加で中長期図書館振興政策の策定

 立ち遅れているわが国の公立図書館を加速的に発展させるため、予算を伴った中長期的図書館振興政策を、市民参加で策定してください。

(2) 補助金・交付金等措置の実施

 公立図書館が効率的に機能するために、司書館長・司書職員の配置を要件とする、図書館建設及び資料費等への補助金・交付金等の措置をしてください。

(3) 図書館管理運営を指定管理者制度、業務委託等民営化の対象から除外

 平成20年6月、社会教育法等の改正時、衆参両院の委員会が「指定管理者制度の導入による弊害、人材確保、有資格者の雇用確保など」の附帯決議を行い、渡海文部科学大臣(当時)も国会答弁で「公立図書館に指定管理者制度はなじまない」と発言されました。指定管理者制度ばかりでなく、業務委託、市場化テスト、事業仕分け等による図書館運営の民営化も、同様の弊害をもたらします。総務省は、さらに一歩踏み込み、平成22年12月「指定管理者制度の運用について」を通知するとともに、片山総務大臣(当時)が記者会見において「公共図書館は指定管理になじまず、行政が直営で、スタッフを配置して運営すべきだ」と発言されました。
 これらの警鐘を省みることなく、指定管理者制度導入など図書館の民営化を強引に進める自治体は後を絶ちません。住民には十分な説明がないまま、コスト削減を目的とした民営化が進み、図書館の衰退を来しています。公立図書館を所管する文部科学大臣として、公立図書館の振興を図るために、指定管理者制度、業務委託等の図書館運営民営化について、平成20年の文部科学大臣答弁を超える表明を行われること、公立図書館を民営化の対象から除外する施策を実施することをお願いします。
 また、指定管理者制度を導入した図書館に対して、指定管理期間終了後は直営に戻すよう、働きかけをしてください。

(4) 図書館協議会の設置促進と住民代表枠の設置

 図書館協議会は市民参加の重要な仕組みなので、公募による住民代表の協議会委員の参加する図書館協議会の設置推進を働きかけてください。さらには、図書館法第14条を改正し、図書館協議会を、住民代表参加を必須とする必置機関としてください。

(5) 図書館で働く官製ワーキングプアの労働環境の改善

 公立図書館において経費削減を前提とした司書の非正規・嘱託化が進んでいます。その雇用期間は、3年あるいは5年といった有期の雇用止めが散見されます。また、指定管理者制度など民営化された図書館で働く人々の多くが、時給800〜900円台という低い賃金で働いています。司書専門職は経験と知識の蓄積が必要な職務であり、短期間の有期雇用では、図書館サービスの質の低下を招きます。図書館本来の使命・役割を考慮して、正規・専門職雇用を当該自治体へ働きかけ、官製ワーキングプアの労働環境を改善してください。

(6) 地域資料や郷土資料の電子化のための予算計上

 国立国会図書館で進めている資料の電子化計画は、将来の教育文化政策に大きな力を発揮する画期的な取り組みとして期待しています。公立図書館においても、独自の地域資料、郷土資料の電子化を推進し、国と連携することが強く望まれます。公立図書館における該当資料の電子化が、従来の資料費を削減することなく迅速に進められるよう、資料電子化のための補助金の設置等をしてください。
 特に、昨年の東日本大震災で、貴重な地域資料、郷土資料も大きな被害を受け、修復できないものも出てきつつあります。これらの資料を整理修復し、電子化するための予算措置を早急に実施してください。

(7) 県域を越えた資料郵送費の無料化の実現

図書館利用者が、他の図書館から図書資料を入手する場合、現状は県立図書館が中心となって県域の資料搬送を受け持ち、県内の資料流通システムが作られています。しかし、県域を越えた場合は、借り受ける図書館が送料を負担しますが、予算が無いので利用を断わったり、利用者に経費を負担させたりすることがあるなどの問題が起きています。
貧富の差なく、誰でも必要な資料を無料で利用できるよう、県域を越えた資料流通に必要な郵送費等を国の政策で無料化してください。

3.学校図書館の活性化

(1)学校図書館整備のための効果的な財源処置

 学校図書館の整備充実のために予算措置されている地方交付税が、その目的のために使用されるよう、全国の自治体に対し指導してください。「学校図書館図書標準」に達している学校図書館は、小学校50.6%、中学校42.7%(平成21年度末、文部科学省調査)に過ぎないものの改善されつつあります。しかし、数は達していても、現状にそぐわない古い資料がかなり含まれていて、冊数だけではなく質の充実を図る施策も必要です。学校図書館の活性化のために、補助金等、効果的な財源措置をしてください。
 なお、高等学校図書館の図書費は年々減少が続き、平成9年度に48億円を超えていたものが、21年度には22億円と1/2を切るまでになっています(文部科学省「地方教育費調査」)。実効ある支援策を検討実施してください。

(2)学校図書館への専門職員の配置

子どもたちの学びに寄与できる学校図書館は、いつも開いていて、子どもたちや教諭が必要とするときにすぐ資料を手渡しできる「人」がいなければなりません。司書資格を持ち専門性を発揮できる専任で正規の学校司書を、発令された司書教諭と協働しながら学校図書館の活性化を進めることができるよう、すべての学校に配置するようにしてください。学校図書館担当職員(学校司書)の配置に対する150億円の財政措置は、そのことへの第一歩となるものです。この施策を単年度に終わらせることなく、さらに充実発展させてください。

(3) 学校図書館運営を業務委託等民営化の対象から除外

学校図書館運営を民間会社へ業務委託をしたり、指定管理者が運営する公立図書館から民間会社の社員を学校図書館へ派遣させるなど、学校図書館を実質的に民間会社が運営することが起きています。学校教育に欠くことのできない学校図書館が、学校の直接管理ではなく、民間会社に委ねられることに大きな危惧を感じます。加えて学校図書館の運営ノウハウやスキルが学校に蓄積されないため、学校図書館の継続的な発展は望めません。学校図書館運営を業務委託等民営化の対象から除外するよう、適切な対応をとってください。

4.国会図書館の書誌データについての周知

 平成24年1月から国立国会図書館の書誌データが、無償で提供されるようになりました。各公立図書館、学校図書館等が、現在使用している書誌データから国立国会図書館の書誌データにすみやかに移行し、書誌データの一元化のメリットを享受できるよう、各図書館への周知を図り、推進するための施策を実行してください。

以上

連絡先 図書館友の会全国連絡会事務局  阿曾千代子
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<添付資料・賛同団体104団体(PDF)


(テキストのHTML化にあたり、読みやすくするため見出しの太字指定および改行を適宜行わせていただきました。また代表者等の住所、連絡先等は個人情報保護の観点から伏せさせていただきました。ご了承ください。要望書の原文はPDFまたはWord文書をご参照ください。)


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