【2016年5月24日】公立図書館の振興を求める要望書(文部科学省宛)

平成28年5月24日

 文部科学大臣 馳 浩 様

図書館友の会全国連絡会  代表 福富洋一郎
(住所省略)
その他賛同88団体

公立図書館の振興を求める要望書

私たちは公立図書館の振興発展を願い、全国各地で活動を行っております。また、国に対しても公立図書館の振興について毎年要望してまいりましたが、この要望を真摯に受け止め、ご尽力いただいておりますことに対し心からお礼を申し上げます。

今日、地方公共団体の財政悪化が引き続く中で、資料費などの図書館経費削減、また、経費削減のための指定管理者制度導入など公立図書館運営の民営化が進み、公立図書館は疲弊し、困難に直面しているように私たちは感じております。

我が国の公立図書館数は2270館(平成7年度)から3241館(平成27年度)へと、1千館近い館数の増がありました。このことは大変喜ばしいことですが、この5年余り頭打ちの状態です。その内情を見ると、図書館の貧しさが進行しているように見えます。公立図書館総体の資料費予算額は321億円(平成17度)から291億円(平成27年度)へと減少し、1館当たりの資料費予算額は1096万円から897万円にまで落ち込みました。

職員数は、正規雇用は1万4206人(平成17年度)から1万485人(平成27年度)に26%減少し、一方、非正規雇用の非常勤・臨時職員(年間実働時間1500時間を1人として換算)は、1万3257人(平成17年度)から1万6575人(平成27年度)に25%増加しました。しかし、この間に最も変化したのは、民営化された図書館で働く職員(年間実働時間1500時間を1人として換算)で、2358人(平成17年度)から1万666人(平成27年度)と、4.5倍に急増しました。非正規職員のほとんどが短時間勤務、1年有期雇用、最低賃金に近い賃金で働いています。図書館運営の要となるべき図書館職員が不安定雇用、低賃金の職員に置き換えられ、図書館を支える人材を育成する基盤は崩壊しつつあるように見えます。

これら公立図書館の貧困化を反映して、公立図書館の貸出総数は平成22年あたりから後退し始めるという事態が起きてしまいました。平成22年度に7億1647万点あった貸出総数は平成26年度には6億9065万点に、2600万点近くも減じました。(統計数値は日本図書館協会の調査による)

これまで我が国の公立図書館は、ゆっくりとしたペースであったものの着実に発展を続けてきました。それは、昭和25年の図書館法の成立から現在に至るまで、多くの人々の努力の積み重ねによるものと考えています。それでもG7と呼ばれた国々の中で格段に立ち遅れている実態は広く知られており、国民としてはとても歯がゆいことです。しかし、G7 の国々においても、国や地方、市民、図書館員などが、長い年月をかけて築きあげたものであり、この努力を抜きにして、図書館の発展はないと考えます。市民が自ら調べ、考え、判断して課題を解決していくための地域における資料・情報の拠点として、民主主義社会を支える根幹となる図書館はそのようにして生まれてくると考えます。

現在の公立図書館はとても看過できない状況にあります。国が、今日の状況に照らして、地方公共団体の図書館の振興、発展のための施策を行うことが求められています。今回、大きく2つの課題について下記の通り要望いたします。ご多用のところ恐縮ですが、6月末日までに図書館友の会全国連絡会代表宛に文書でご回答をお願いします。

1.公立図書館の管理運営を指定管理者制度等民営化の対象から除外してください

平成20年6月、社会教育法等の改正時、衆議院文部科学委員会が「人材確保およびその在り方について、指定管理者制度の導入による弊害についても十分配慮し、検討すること」、また参議院文教科学委員会が「人材確保およびその在り方について検討するとともに、社会教育施設の利便性を図るため、指定管理者制度の導入による弊害についても十分配慮して、適切な管理運営体制の構築を目指すこと」の附帯決議を行い、渡海文部科学大臣(当時)から「公立図書館に指定管理者制度はなじまない」との国会答弁がありました。

これらの附帯決議については、附帯決議冒頭において「政府及び関係者は特段の配慮をなすべきである」と書かれています。しかし、これまでの8年間、それらに対応した施策が行われたようには見えません。この間、これらの警鐘を省みることなく、指定管理者制度導入など図書館の民営化を強引に進める地方公共団体は後を絶ちません。しかも住民には十分な説明がないまま、今も民営化が進んでいます。

平成27年8月、指定管理者制度導入の成功例として全国的に喧伝された九州の都市において、大量の中古書が購入されていたことが発覚し大きな問題になりました。続いて9月、同一の民間事業者が指定管理を受けた関東の都市においても、不適切な蔵書購入が問題となり、図書館としての社会的使命を果たすよりも、自社の利潤拡大を最優先させていることが、多くの人の目の前に明らかになりました。私たちは、本の流通に関係する業者が指定管理者になり、本の選定・購入権を委ねれば、営利を優先した資料の選定・購入が起きるだろうと危惧してきましたが、問題の一端が現れたと考えています。

以上のことから私たちは下記3点を要望します。

(1)平成27年11月、総務省は「経済・財政一体改革の具体化・加速に向けた地方行財政の取組について」の中で、図書館等の教育機関に平成29年度以降トップランナー方式導入を検討すると記しました。トップランナー方式を導入すれば、地方交付税の中の図書館算定分が削減され、図書館への指定管理者制度導入が促進されてしまいます。経費削減と引き換えに図書館の設置目的が損なわれることのないように、図書館にはトップランナー方式を導入しないように働きかけてください。

(2)当面、公立図書館を所管する文部科学大臣として、公立図書館の振興を図るために、指定管理者制度について、平成20年の文部科学大臣答弁を超える表明を行ってください。また、公立図書館を指定管理者制度の対象から除外する施策を実施するようにしてください。

(3)指定管理者制度を導入した図書館の実態を調査し、その問題点を明らかにし、適切な管理運営体制を構築するための施策を講じてください。

2.公立図書館に図書館協議会を設置する法改正を行ってください

図書館協議会に関し平成27年5月に提出した私たちの要望に対して、ご尽力いただきましたことに感謝申しあげます。改めて申し上げるまでもなく、図書館法に規定する図書館協議会は、公立図書館がその地域に即したサービス・活動を展開するために必要不可欠な制度です。しかし、任意設置であるために設置しない市区町村が多数あり、また、類似の組織を設置し図書館協議会の肩代わりをさせるなど、図書館協議会の重要性が十分に認識されていないのは残念なことです。

先ずは国において全国の図書館協議会の現状をしっかりと把握し、図書館協議会が図書館の振興発展に力を発揮できるようにするための有効な施策を行ってください。

この図書館協議会に関し、私たちは下記3点を要望します。

(1)図書館法第14条第1項「公立図書館に図書館協議会を置くことができる。」を「公立図書館に図書館協議会を置く。」に改正して下さい。また、図書館協議会委員の任命はいわゆる公募枠を設ける法改正等の措置を行ってください。

(2)地方交付税措置に関し、市町村立図書館の図書館協議会委員の報酬に関して、都道府県立図書館と同様に積算根拠に明記することについて、総務省とともに引き続き取り組んでください。

(3)平成27年度実施の「公立図書館の実態に関する調査研究」のとりまとめをなるべく早く公開してください。

以上

 連絡先  図書館友の会全国連絡会事務局長 船橋佳子

※個人情報保護の観点より事務局等の連絡先はホームページでは非公開とさせていただきます。お問い合せは図友連HPメールフォームよりお願いいたします。

 >> 【2016年5月24日】公立図書館の振興を求める要望書(文部科学省宛・賛同団体一覧付PDF)